エーテルミリキャノン-XenobladeX微細情報ブログ-

XenobladeX(ゼノブレイドクロス)について調べものをしていた者。役に立たないゼノクロ情報を発信。

「ウィータを回せ! 私自ら出…ぬ…!」

昔書いたゼノブレイドクロスのSSを再掲載。

12章IF展開のショートストーリー。


読みたいなら、続きをどうぞ。

 

「ウィータを回せ! 私自ら出…ぬ…!」

 

「ウィータを回せ! 私自ら出る!」
グロウス総帥・ルクザールは力強く命じた。
ルクザールがいる場所は、グロウス旗艦内部の中央艦橋エリアだ。
『セントラルライフ』を破壊する作戦の最中だった。

『ライフ』とは、現在のグロウスにとって最大の攻撃対象だ。グロウスが敵対している地球人にとって『命』であると表現できる施設だ。
地球人は『ライフ』の探索及び確保に総力を上げていた。地球人が自らの稼働限界時間に追われ、原生生物の脅威に苦しみながらも、この惑星を調査・開拓して来たのも、全ては『ライフ』発見のためだ。
グロウスも地球人ほど熱心では無かったにせよ、『ライフ』を破壊し、この惑星から消し去さろうとする確固たる意思の下に、捜索を続けて来た。

グロウス及び地球人の捜索にも関わらず、『ライフ』の位置は、長らく不明だった。

しかし、グロウスは、地球人よりも早く『ライフ』の位置を特定することに成功した。
この機を逃す間抜けなどグロウスには存在しない。
ルクザールは、直ちに『ライフ』を破壊するべく、行動を開始した。
ルクザールは、地球人がそう遠くない内に『ライフ』へ到達するであろうことを理解していた。
地球人が駆け付けて来る前に、それこそ1秒でも速く『ライフ』を破壊したかった。
そのため、地球人に移動先を察知されて先回りされることは絶対に避けたかった。地球人の監視網に引っ掛かること、尾行されることも避けるため、小規模な編成で作戦を遂行すると決断した。

この惑星におけるグロウスの旗艦、そしてゼルン3隻およびそれらの艦載機が、この作戦に投入した全戦力だ。

グロウス内部では、自分達の科学技術が地球人より優れているのは明白だという意見が主流だった。
『原始人が作った建造物など、我らの戦艦で軽く消し飛ばしてみせる。』
そのような驕った考えは、この惑星における戦況が地球人勢力に傾きつつある事実を考えると、信仰に近いものだったのかも知れない。

位置情報を元に、近海の比較的浅いエリアに沈んでいた『ライフ』を発見した。
海中に沈んだままでも攻撃することは可能だった。
しかし、グロウスの主力兵装であるビーム兵器は、海中での使用に適していない。豪雨などで空気中に障害物があるだけでも威力が軽減されてしまうのだ。水中で役に立たないのは当然だろう。
攻撃し易くするために、潜水させたゼルンの牽引ビームを使って、近くに都合良くあった岩礁の上に乗せた。

そこまでは順調だった。

しかし、『ライフ』を守るトリオン型障壁に阻まれ、作戦は全く進展していなかった。
現在の戦力でトリオン型障壁は破れず、目標を破壊できない。
そこに、地球人のドール部隊が到着し、交戦が始まってしまったのだ。

このままでは、勝機が無いように思われた。

そのため、ルクザールはウィータでの出撃を決意したのだった。
ウィータの力さえあれば、トリオン型障壁であろうと、必ず突破できると確信していた。
ルクザールが単身で『ライフ』に乗り込み、内部から破壊しようと考えたのだ。

しかし、部下の反応は、ルクザールが予想だにしないものであった。
「なりません! 貴方では無理です!」

「なりません!」
(総帥、ウィータはあの御方の。)
「貴方では無理です!」
(いかにルクザール総帥といえど、御身が持ちませぬ。)
その部下は、口にするはずだった言葉と、心で呟いた想いが、逆転してしまったのだ。

その部下は、残忍非道で鳴らしたグロウスの副官にまで登りつめた男だった。
敵への情け容赦は勿論、戦場への恐れも持ち合わせていないはずだった。
しかし、精神の奥底にあったわずかな動揺が正常な判断を妨げたのだった。

地球人が強すぎることが原因だった。
次々に敗北・戦死したグロウス幹部達。
一部隊に撃破されたズ・ハッグ。
ドール及びBBの異様に高い戦闘力。
トリオン型障壁を所持。
いずれも、グロウスが推定していた地球の文明水準からすると、考え難いことであった。
もはや、地球人の背後に『何らかの文明』が存在することを、意識せざるを得ない状況であった。

ルクザールは、予想外のことを言われ、思わず固まった。
本来なら怒り狂っていたに違いないのだが、驚きのせいか、感情は乱れず平静であった。

不遜にもほどがある発言した副官も、つい先程、スクリーン越しに戦況報告をした部下2人も固まっていた。

地球人の攻撃により旗艦が揺れた。その振動によって、ルクザールは、自分を取り戻した。
そして、言った。
「その諫言、忠義故のものと判断しよう。一理あるかも知れん。私が出撃することは止めだ」

ルクザールではウィータの性能を最大でも30%程度しか引き出すことができない。
ウィータ回収後の修復作業を終えた後、動作チェックのため操縦した経験はあった。
しかし、実戦でウィータに乗った経験は無かった。
ルクザールはウィータの搭乗者として、あまりに未熟であると表現せざるを得ない。
ルクザールの力量では、出撃しても、必ず勝てると断言できない。
敵の最重要拠点に単身乗り込むなど、リスクが大きすぎる。
万一、ウィータに敗北の2字を与えてしまうようなことがあれば、取り返しが付かない。
あの御方に対する反逆でなくて何だと言うのか。

ルクザールは、自分の評価を知っていた。
特に取り柄の無い小物。
率直に表現すれば、ルクザールは気が弱い人間だった。
支配下にある筈のラース人に対しても、彼らが反逆を起こすことを恐れて、あまり強く出れずにいた。
真っ当なグロウス幹部であれば、ガ・デルグに煽られでもしようものなら、即座に殺していただろうということを考えれば、ルクザールがいかに甘いかがわかる。
グロウス総帥の地位にいるにも関わらず、あの御方が降臨し、自分を導いてくれることを祈るような、主体性の無さを有していた。
そして、認めたく無いが、神話を信じ切っており、地球人を恐れていた。
この惑星にいるグロウスの中では階級が最も高く、ウィータの性能をある程度なら引き出せるということで、最低限の権威はあるが、本来なら、グロウス総帥を名乗ることなど許されない。
それでも、この惑星にいるグロウスの最高権力者であることは間違い無かった。

指揮官として、やるべきことは何か。
まずは、ウィータとこの艦を守り抜くこと。
そして、最終的に地球人に勝利することだ。
そのための策も思い付いた。

「目標への攻撃を中断せよ! 攻撃を外のハエ共に集中させるのだ! 艦載機も全て出せ! 本艦は攻撃を迎撃のみに留め、エネルギーを防御に回せ! 急がせろ!」
ルクザールは命令を下した。

部下が慌ただしい様子で命令を復唱し、全艦・全機に伝達していく中、ルクザールは嗤った。
「宇宙のガン細胞どもめ。貴様らの思い通りになるなどと、考えるなよ」

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「撃て、撃て! ゼルンを集中攻撃しろ!」
NLAブレイドタワー内部・司令室では、『ライフ』内部に進入したエルマに代わり、ブレイド司令・ヴァンダムが、ドール部隊の指揮を執っていた。

軍務長官・ナギと、行政長官・モーリスも、その傍らで、戦局を見守っていた。
司令室のモニターには、『ライフ』周辺映像や、航空写真やレーダーなどの各種情報が表示されており、室内のオペレーター達は必死の形相で、情報伝達をしていた。

「今のところ、こちらが優勢と見て良さそうだな」
ナギは呟いた。
「俺達が間に合うとは予想外だったんだろ」
ヴァンダムが、目をモニターに据えたまま、応えた。

グロウス最大の脅威は、その圧倒的な『数』にあった。
しかし『ライフ』周辺の敵はグロウスの規模からすれば非常に少数だと言えた。

地球ドール部隊は、実力の確かなメンバーを中心に、可能な限りの戦力を結集していた。
作戦に参加できるのは、飛行可能なドールに限られていたが、優先的にフライトパックが支給されているチームというのは、総じて優秀なチームであり、個々の戦闘力は高い。
この作戦の成否に人類存亡が懸かっていることもあってか、士気も非常に高かった。
不安があるとすれば、頭数がやや物足りないことと、古参のパイロットには未だに20番代のドールを愛用する者が多いことぐらいだった。

「障壁が見事に役目を果たしたようだな。アレがなければどうなっていたことやら」
モーリスも、拳を固く握りしめてはいたが、戦況を不安視している様子はなかった。

これで、エルマが『ライフ』を予備電源へ切り替えることができれば、当面は安泰だと予測されていた。
何も問題がなければ、『ライフ』の稼働限界時間到来よりも先に、切り替えは可能なはずであった。

しかし、ここで新たな伝達があった。
「グロウス旗艦に動きあり! 画面に表示します!」

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「予備電源に切り替えてもいいかしら?」
『ライフ』内部で、エルマは言った。

エルマは、つい先程、BBから『真の姿』に戻り、『ライフ』の真実を皆に伝えたところであった。
『ライフ』内部には、敵もおらず、地下墓地のように、静まりかえっていた。

「…ああ…! そうだな。そうしてくれ」
ダグラスが言った。
彼は『ライフ』の仕組みを説明される中、難しい顔をして黙り込んでいたが、『ライフ』の、稼働限界時間が近付いていることを思い出したようであった。

皆が無言の中、エルマが端末を操作した。
何事も無く、数分で作業は完了し、『ライフ』が、予備電源に切り替わったことを確認した。

「やりましたね、中尉!」
ほっとした様子のグインが言った。

その直後、『ライフ』が大きく揺れた。

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ブレイド司令室のモニターに表示されたのは、グロウス旗艦が上昇する様子であった。
『ライフ』上空で静止していた、グロウスの旗艦が移動を開始したのであった。

「逃げる気か?」
ヴァンダムが困惑したように呟いた。
「わからん」
不毛な会話だと思いつつ、ナギも言った。

グロウスの目的は、すぐに判明した。
「…『ライフ』を持ち上げてやがる…!」

グロウス旗艦の下部から網のように光線が伸び、『ライフ』を障壁ごと牽引しようとしていた。

元々、『ライフ』は海中に沈んでいた。
現在、水上に姿を見せているのは、ゼルンが潜水し、索引ビームを使って付近の岩礁の上に引き上げた結果であった。

「こちらヴァンダム!  全機に告ぐ! グロウス旗艦を集中攻撃せよ! 敵はライフを海に沈める気だ!」

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「南西に進め! 岩礁地帯から離脱次第、 この不浄なカタマリを海溝に沈めるのだ!」
ルクザールは、ツバを飛ばしながら叫んだ。
その後、気まずくなり、ツバをぬぐった。

単純な発想に基づく作戦だった。
恐らく、地球人はこれだけ巨大な建造物を、深海から引き揚げる技術を有していない。
マ・ノン人なら可能かも知れないが、それでも相当な時間を要するはず。

予備電源への切り替えができなければ、『時間切れ』となり、全ての地球人が活動を停止するはずだ。
予備電源への切り替えができたとしても、海底で、手出しできない状態にしてしまえば、
引き揚げられるまで、何もできないはず。
落下の衝撃や水圧で『ライフ』を破壊できる可能性すらある。

ひとまず『ライフ』を深海に沈め、周囲に、増援部隊を呼び寄せ、防備を固める。
そうすることで、地球人に『ライフ』を確保させないことを目的にした作戦だ。

要するに、『ライフ』の破壊ではなく、時間稼ぎを目標とした作戦に切り替えたのだ。

グロウスの旗艦は『ライフ』を持ち上げ、南西に向かって移動を開始した。

「第2クラスター砲塔群大破!」
「左翼噴射口、やられました!  速度低下します!」

「まだ足掻くか! 原始種族め! 」
ルクザールは、報告を聞きながら罵った。
グロウス旗艦は、集中攻撃を受けると予想されていたため、高出力兵器の使用を抑え、出力をバリア発生器に集中させていた。
それでも地球人の攻撃を防ぎ切れていなかった。

「…この器を使うこと、お許しください…どうか我らを凶事からお護りください」
ルクザールは右手で祈りを捧げた。
ウィータも、モーションリンク・システムによって同様の仕草をした。

薄暗い中央艦橋に、黒い球体が1機出現した。

ルクザールは先程から、中央艦橋内部で、ウィータに搭乗していた。
その状態で指揮を執っていたのだった。

ウィータに搭乗している目的は、周囲に威厳を示し、自軍の士気を向上させること、そして、サテレスの創生であった。
「完成だ。シールド・サテレスを射出しろ!」

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ほぼ同時刻、地球ドール部隊は、グロウス旗艦に集中攻撃を加えていた。

『ライフ』は、底部にある球体部分の大半を露出した状態で南西にジリジリと移動中だった。
球体部分の下部は、海中に浸かったままで、引きづられる度に、激しく波を立てていた。

グロウス旗艦は、対空機銃を全方位に向かって、絶え間無く撃ち続けている。
主砲や放電など大規模な攻撃はしていないものの、数多の機銃がうなりを上げている様は、恐れ知らずの地球人にとっても、安易な接近を躊躇わせるものがあった。

旗艦の正面で、果敢に攻撃を加えていた地球ドールが、突然急降下して来たバスギアに蹴り飛ばされ、大破した。

地球人のドール部隊は『ライフ』の危機に動揺し、旗艦への攻撃を優先するあまり、脇が甘くなっていた。

グロウスのドールや無人兵器は、交戦の結果
大幅に数を減らしていたが、未だに20機以上が残存していた。
ゼルンは、地球ドール数十機の集中攻撃によって2隻が大破したものの、残る1隻はほぼ無傷の状態で残存し、主砲を撃ち続けていた。
グロウスの戦力は未だ健在だった。

「まずいぞ! 何とかならないのか!」
ブレイド司令室でモーリスが叫んだ。
「落ち着いてくれ長官。何とかしてみせる。」
動揺が広がるのを防ぐため、ナギは大きめの声で言った。

「旗艦の武器を狙え! 少しずつで良いから、機銃を破壊しろ!」
ヴァンダムも指示を飛ばしている。

「…もう少しで堕とせると思うんだが…」
ヴァンダムがモニターに映るグロウス旗艦を睨みながら、歯ぎしりするように言った。

(どうする。…もっとドールの数があれば…!)
海上でグロウスの飛行ドールに対抗するには、こちらも飛行可能なドールを使うしかない。
そのため、フライトパックを装着したドールのみで、作戦を決行せざるを得なかった。

「ヴァンダム! ナギ! 聞こえる?」
「この声は!? エルマか!? どこにいる?」

カメラを下に向けさせれば、すぐに彼女達の姿を発見できた。
恐らく、『ライフ』外側の大扉から出てきたばかりなのだろう。
『ライフ』から伸びる足場の上に、エルマ達のドールが立ち並んでいた。


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「私達、忘れられてたんですかね?」
リンがドールコクピットのマイクで言った。
場所は『ライフ』大扉前の足場だった。
「さぁ? それも無理ないと思うけど」
エルマが、下で激しく波立つ海面を見ながら応えた。
そして、チラリとラオを見た。

『ライフ』内部で揺れを感じた後、ドールに乗り込み、外へ出ようとしたその時、入口の反対側にある大扉からラオが現れた。
『ライフ』に小さな穴が空いており、そこから入ったのだと言っていた。

彼は、地球人を守るために、ケガを押してやって来たのだと語った。
ヴァンダムも納得済みのことだと言っていた。
ラオが外の足場に置き去りにしていたドールは、揺れで海に落ちてしまったのか行方不明になっていた。激しく揺れ動く『ライフ』に置き去りにするのは危険すぎる。海を泳がせるのも、グロウスから狙われた場合に反撃できないため危険だ。仕方無く、ダグのドールに『乗る』ことになった。ラオは今、ドールの左肩にしがみ付いている。

「皆、準備はいい? 行くわよ!」
「了解!」
その場にいた、全員が応えた。


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『ライフ』から一斉にドールが飛び立った。
そして、地球ドール全機に通信が入った。
「私達は、ゼルンを堕とす! 他のチームは、旗艦へ攻撃を続けて! 敵ドールに堕とされずに行動すること!」

戦場にエルマ達が戻ったことで、地球ドール部隊の士気は大幅に上がった。
来ないものだと考えていた増援が来たのだから当然だろう。
まして、アヴァランチのダグ、インターセプターのイリーナ・グイン、そして、テスタメントのエルマは、旧ドール教導隊所属のベテランで、ブレイドのエースと言える存在だった。

飛び立ったエルマのドールの前に、ガルドラが立ち塞がった。そのガルドラの主武装・トルネードクローは、眼前の敵に飛び掛からんと高速回転している。

「遅い!」
エルマのドールは、右腕でGバスターを掴むと、走り抜けざまにガルドラを両断し、振り向きもせずゼルンへ向かった。

その時、旗艦から射出されたシールド・サテレスが、旗艦の周囲にエーテル障壁を展開した。

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「おい! どうなってる!  攻撃が効かなくなったぞ!」
ブレイド司令室で、ヴァンダムが怒鳴った。

地球ドールによるグロウス旗艦への攻撃が突然無効化された。
戦闘開始から、約30分が経過していた。
地球ドール部隊は、ほとんど絶え間なく攻撃を加えていたため、燃料が少なくなったドールも存在していた。

「目標のグロウス旗艦が、極めて強固な障壁に包まれたとの報告です。センサーで分析したところ、艦全体がエーテルで構成されたバリアで覆われています」
オペレーターの1人が報告した。

「こんなもんまで仕込んでやがったとは。だが、何故これほどボロボロになるまで、使わなかった?」
ナギは、冷静であり、不自然さを感じた。
ナギは過去に同様の事例が無いか脳内を検索していった。
思い起こされたのは、白樹の大陸におけるエルマチームとラース人ドールとの交戦記録だった。
ラース人の王、ガ・デルグのドール・ヴァサラが障壁によって無敵になったタイミングが存在した。
その時は、参戦して来たラース人のドール・カカラを4機とも全滅させることで、障壁は消えたと言う話だ。
恐らく、カカラが障壁を発生させ、主君を護ってていたのだろう。

その事例を思い出し、ナギは命令した。

「どこかに、障壁の発生装置があるのかも知れん。各自、違和感があるものを見つけたら攻撃しろ」

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母艦がエーテル障壁に包まれたことで奮起したのか、グロウスの攻撃は激化していた。
残存しているグロウスのドールは少なかったが、裏を返せば、現在生き残っているのは腕利きのドール乗りばかりだと言えた。

グロウスは数々の星を制圧してきた実績を持つ組織だ。
圧倒的な物量で押し潰す戦法を好むが、そもそもの技術水準が高く、中でも武器や兵器の性能は異様なほど発達している。
グロウスに対抗できている地球人が例外的なのであって、本来グロウスのドールは、宇宙最強とまでは言えないものの、非常に強力なのだ。
その搭乗者も、ほぼ全員が、攻撃的で、残忍で、殺意に満ちた凶漢だ。
この作戦に参加している地球人は腕利きばかりだが、現在生き残っているグロウスのドールは簡単に倒せるような相手では無かった。

数が減っているのは地球ドールも同じだ。
もはや旗艦にばかり構っている余裕は無かった。
縦横自在に空を飛び、激しい攻撃を仕掛けて来るグロウスのドールに専念せざるを得なかったのだ。

そのため、地球人の視線を避けるかのように、母艦の翼周辺や、友軍機の陰など、暗がりに潜みながら移動する球体に、目を向ける者はいなかった。

ただ一人を除いては。
「見つけたぜ」
「何だ? 聞こえねぇぞ! ラオ!」

ダグのドールは、ルーのドールと共に、ゼルン周辺にいる敵ドールを排除していた。

ドールの左肩に掴まっているラオに強い負担がかかることは承知の上だが、グロウスから攻撃を喰らわないために、最高に近い速度で飛行していた。

そのため、風の音に妨げられ、ラオがインカムの向こうで何と言ったか聞き取れなかった。

ダグは仕方無く、ドールを空中で静止させた。
「どうした、ラオ!」
「さっき命令があったろ? 母艦の近くにいる丸っこい奴。アイツがシールド発生装置に違いねぇ。もっと近付けろ。俺が殺る」
「空飛ぶドールの上で狙撃しようってのか? 落ちたらどうするつもりだ」
ダグは思わず、周囲への警戒も忘れ、ラオの方を見てしまった。

ラオの答えは簡潔だった。
「そんときゃ、泳いで陸まで行くさ」
「このまま近寄って、ドールで攻撃すれば済む話じゃないか?」

「アイツ、ドールが近くに来ると、逃げ回る性質があるようだ。ほら、見ろ!」

ダグからでは遠すぎて、よく見えなかったが、黒い球体が、近くを通り過ぎて行った地球ドールの視界から逃れるように、ぬるりと翼の下へ移動したのがわかった。安易に接近して、逃げ隠れされてしまうと仕留め切れない可能性があると判断した。

「迷ってる時間はないようだな。だが、お前のためにやるんじゃない。人類のためにやるんだ。俺はまだお前を許しちゃいない」
ダグはゆっくりと、母艦に近付いた。
ラオが、スナイパーライフルを構えた。

コクピット内にミサイルの接近を知らせる警告音が鳴り響いたが、ダグは動かなかった。

「こいつは、とっておきだ!」
ラオが、シールド・サテレスを撃ち抜いた。
その直後、ガルドラが放ったヒュージミサイルが、ダグのドールに直撃した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
イリーナは見た。
ダグのドールがミサイルで撃墜される様を。
そして、空中に投げ出されるラオを。

(そう言えば、マーカスも、ガルドラのミサイルに殺されたんだった)

イリーナは、エルマ・リン・グインと共同で、ゼルンを攻撃していたが、怒りがこみあげ、ダグを撃ったガルドラ目掛けて急降下した。
「殺ってやるー!」
最高速度を維持したまま、走り抜け様にビームセイバーで両断した。

ダグ達の状況を確認するため下を見ると、ダグのドールが上昇してくるところだった。ラオが海面で手を振ったのも見えた。
(生きてたのかよ)
イリーナは安堵すると同時に、若干の苛立ちを感じた。

ダグは、着弾の直前、愛機・インフェルノ
オーバークロックギアを発動していた。
衝撃までは防げなかったものの、爆炎によるダメージを反射して無効化したのだ。

「なら、デカい3本足をとっとと殺るか」
ゼルンを見上げるイリーナの顔に凶悪な笑みが浮かんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シールド・サテレスが消失しました!」

「案ずるな! もう30秒で海溝に到着する! 第2陣を射出しろ!」
ルクザールは軋み始めた艦内で怒鳴った。
最初のシールド・サテレス射出後、新たに4機のシールド・サテレスを創生済みであった。

「シールド・サテレス2機を射出!」
部下がワープ(転送式)カタパルト機能で、サテレスを船外に射出した。

その直後、轟音と衝撃が艦内に響いた。
「下部艦橋破損! 外気侵入! 牽引ビーム網出力低下!」

「目標を、保持できません!」

ルクザールは部下の報告を聞きながら、強い浮遊感に見舞われた。
『重荷』を手放してしまった分、艦の浮力が上がったことを意味していた。

『ライフ』が、ゆっくりと堕ちていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「グロウス旗艦下部に大きな破損を確認!」
「『ライフ』が落下します!」

ブレイド司令室においても、オペレーターが絶叫するように報告していた。

「…!…」
ライフが墜落する瞬間、モーリスは思わず、顔を背け、目を閉じてしまった。

「…どうなった!?…」
「自分の目で見てみろ、行政長官」
ナギの言葉に、モーリスは目を開けた。

『ライフ』は斜めに大きく傾いていた。
しかし、3つある大扉の1つは水上にあった。
とりあえず『ライフ』は沈んでいないという表現が適切であった。

「我々がこうやって話していられるということは、『ライフ』の中身も無事なのだろう」

「状況は予断を許さん。奴らを殲滅しろ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ルクザール総帥! もはや、勝ちの目は、ございません! 退却のご指示を!」

「まだだ! 本艦を護るエーテル障壁も復活した! ゼルンもまだ1隻残っているではないか!」

ルクザールはスクリーンを凝視していた。
スクリーンには、地球ドールがグロウス旗艦を取り囲み、猛攻を加えている様子が映っていた。シールド・サテレスによる障壁がなければ艦は大破していたはずだった。

「我らのドールは何をしているか!?」
旗艦外部の映像を映している全天周スクリーンで周囲を一望しても、その姿を見い出すことができなかった。

「何故、攻撃をせん!? もはや、本艦のバリア発生装置や、牽引ビーム網に出力を割り当てる必要はない!」

「全武装の約8割が破壊されました」
「主砲は無事ではないか! 撃て!」

「艦の損害が激しすぎるため、発射時に爆発する恐れがあります」

「ゼルンは何をしている! 向こうで交戦しているのは、たかだかドール6機ではないか!」
ルクザールは再度、怒鳴った。

ゼルンはグロウスの攻撃空母だ。
グロウス旗艦を除けば、グロウス最強の兵器だ。一部の例外を除けば、グロウスに、これ以上の戦闘力を持った兵器は存在しない。
先に沈んだゼルン2隻は、地球ドール数十機との戦闘を経て沈んだ。逆に言えば、地球人にとっては、それほどの戦力を向かわせなければ倒せない存在のはずだ。
たかが6機のドールにゼルンが苦戦するなど、ルクザールには考えられなかった。

「苦戦しております。精鋭部隊のようです」
副官が報告する間にも、ゼルンに攻撃が加えられている。

そして、ルクザールはゼルンが、なすすべもなく破壊される様を目の当たりにした。

ルクザールは改めて『神話』を思い出した。
「…逆らえば、滅びると言うのか…!?」

「…退却だ…! シールド・サテレスをもう2機射出しろ」

唯一残存したグロウス旗艦が、退却を開始した。
地球ドールに追撃されたものの、シールド・サテレスの群れが旗艦を護り抜いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
『セントラルライフ』を巡る作戦は、地球人の大勝利という結果で終わった。

恐れをなしたのか、『ライフ』にグロウスの増援が来ることはなかった。

『ライフ』は無事に確保され、稼働限界時間におびえる必要もなくなった。
今回の作戦で犠牲になった地球人もすぐに復帰できる見込みだった。
地球人の未来は明るいものと考えられた。

現在、『ライフ』では補強工事や修復作業が行われている。最低限の作業が終わり次第、エルマが内部の確認に向かう手筈になっている。

作戦目標はグロウスの殲滅では無かったとはいえ、グロウス旗艦と幹部に逃げられたことは、大きな失態だった。
しかし、今回の大勝利によって、今後の戦局を不安視する者は、良くも悪くも少なかった。

エルマ達は、久方ぶりにNLAで平穏な日常を過ごすことができた。
グロウスの中央指揮系統は健在であり、ひとときの平穏で終わるのかもしれないが、それでも、幸福な時間だった。

ーFinー


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルクザールはウィータの前で、佇んでいた。
ルクザールの顔は、悔恨と怒りに歪んでいた。
脳裏に浮かんでいるのは、先日の大敗だった。
後悔と共に、様々な光景が頭をよぎるが、最も鮮烈な記憶は、ゼルンが数機のドールによって、呆気なく破壊される様子だった。
『ライフ』に入り予備電源への切り替えを終えて出撃した、地球人の精鋭部隊だったと判明していた。
彼らが『ライフ』を出入りした時刻を考えると、ルクザールがウィータに搭乗して『ライフ』内部に突入していた場合は、彼らと相対していた筈だった。
彼らと交戦していた場合、果たしてルクザールは勝ち得ただろうか?
ルクザールの理性は答えを導き出していた。
現在の自分がウィータに搭乗しても、地球人には勝てない。
愛機のゼルンに搭乗すれば勝てるかも知れないが、確信は持てない上に、そもそも問題はそこでは無い。

『あの御方の、ウィータの力さえあれば』
ルクザールは、自分が突入を決意していた頃に抱いていた確信が、あの御方への過信・盲信から生まれた錯覚であることに気付いて、心が揺らいでいた。

今回は少数の部隊しか連れて行かなかったため敗北したが、グロウスの全戦力を動員すれば、勝てる筈だ。
理屈の上ではそう結論付けることができる。
理屈の上では。

次は勝てる筈というのは、あまりに愚かな考えに思えた。
この惑星における地球人との抗争は、大局を見れば、予想が外れ続け、敗北を積み重ねていることが明白だった。

先日の作戦にしても、十分な勝算があると考えられていたのだ。トリオン型障壁という予想外の事態によって事態が硬直してもなお、ルクザールはウィータを使えば必ず勝てると確信していた。
それらの希望は完膚なきまでに、叩き潰された。
次の『勝てる筈の』作戦が同様の結果に終わらないとは、断言できなかった。

次の衝突は、お互いに総力戦となる。
それに敗北すれば、もう後は無い。
この惑星にいるグロウスは滅ぼされる。


自分達が滅ぼされる可能性が脳内に浮かんだルクザールは、それを強く否定した。
「滅ぼされる定めなどあってたまるか! 滅びるべきは、貴様達だ! 断じて、断じて我らでは無い!」

ルクザールは、怒りに支配された頭で今後の作戦を考えたが、状況を反転させられるような名案は浮かばなかった。
それでも、ルクザールには1つの確信があった。
「勝敗を分けるのは、我らに有って、敵に無いもの。ウィータとサテレスだ」


中央艦橋では、ルクザールが再びウィータに搭乗していた。
現在、ルクザールは、サテレスを量産することを己に課していた。
目的の1つは、戦力を増強することだった。
サテレスは、ウィータによって創生される自立型随伴攻撃機だ。運用方法次第ではあるが、様々な能力を持つサテレスは、それなりの戦力になると見なされていた。
特に、シールド・サテレスは極めて強固な障壁を作り出す能力があり、重宝されていた。障壁を転移している間、サテレス自体は無防備になる欠点があっても、1機で戦艦1隻を完璧に護ることができるのだから当然だろう。

ルクザールがウィータに搭乗し、サテレスを量産する真の目的は、ウィータの性能をより大きく引き出せるよう経験を積むことだった。

「名を呼ぶ非礼をお許し下さい。 …………様。   貴方様の『器』を、しばし、私の所有物として用いること、お許し下さい」


「そして、願わくば、私に御力をお与えください!」


「我らを勝利へと導く力を! 凶事を打ち払うための力を! 地球人に滅びをもたらす力を!」

ルクザールは現在の己に許された限界以上にウィータの出力を上昇させた。
「…ぐぅっ!…」
ルクザールは立ちくらみを起こし、体勢を崩して呻き声を上げた。

それでも怯むこと無く、憤怒の形相で怨嗟の声を上げた。

「地球人ども、認めてやろう。現在の私では貴様らに敵わん。だが、今に見ておれ」

ルクザールは足を踏み締め、叫んだ。

「私とて、『あの御方』の眷属! このウィータ、必ず使いこなしてみせるわ!」
暗い艦橋内でウィータの単眼が紅く輝いた。


ーThis Story Is Never Endingー